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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)77号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人三宅正太郎の上告趣意第一點について。

所論は、共犯者又は共同被告人の供述は、それだけでは被告人の自白を補強する證據とすることはできないと主張する。そして、また共犯者又は共同被告人の供述をもって、被告人の自白を補強する證據と認め得るがためには、共犯者又は共同被告人の供述自體が他の證據により補強されており、かつその供述自體と他の證據を共に證據説明中に擧示していなければならぬと主張するのである。しかしながら、共同審理を受けていない單なる共犯者の供述は、各具體的事件について自由心證上の證據價値の評價判斷の異るべきは當然であるが、ただ共犯者たるの一事をもって完全な獨立の證據能力を欠くものと認むべき何等実質上の理由はない。また、かく解すべき何等法令上の根據も存在しないのである。憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項の規定を援引して、かかる解釋を主張することも是認するを得ない。次に、共同審理を受けた共同被告人の供述は、それぞれ被告人の供述たる性質を有するものであってそれだけでは完全な獨立の證據能力を有しない。いわば半證據能力(ハーフ・プルーフ)を有するに過ぎざるもので、他の補強證據を待ってこゝにはじめて完全な獨立の證據能力を具有するに至るのである。しかし、その補強證據は、必ずしも常に完全な獨立の證據能力を有するものだけに限る必要はない。半證據能力の證據を補強するに半證據能力の證據をもってし、合せてこゝに完全な獨立の證據能力を形成することも許されていいわけである。されば、ある被告人の供述(自白)を共同被告人の供述(自白)をもって補強しても、完全な獨立の證據能力を認め得ると言わねばならぬ。それ故、前述の論旨は、理由がない。

さらに、所論は、本件のごとき殺人の場合には、殺意についても、実行行爲についても、致死の結果についても、すべて被告人の自白は、他の證據によって補強されなければならぬと主張するのである。しかしながら、憲法第三八條第三項において被告人本人の自白に補強證據を必要としている趣旨は、被告人の主觀的な犯罪自認の供述があっても、それが客觀的に犯罪が全然実在せず全く架空な場合があり得るのであるから、大體主として客觀的事実の実在については補強證據によって確実性を擔保することを必要としたものと解せられるのである。だから、被告人の自白と補強證據と相待って全體として犯罪構成要件たる事実を認定し得られる場合においては、必ずしも被告人の自白の各部分につき一々補強證據を要するものとは考えられない。のみならず、本件においては前段説明のとおり被告人の自白は、共犯者及び共同被告人の供述その他原判決擧示の諸證據によって十分補強されていることが肯認されるのである。論旨は、それ故にすべて採用することを得ない。

同第三點について。

原判決がその理由において、被告人の前科につき所論のように認定説示したこと並びに被告人は原審において所論のように供述したに過ぎないことは、いずれも所論のとおりである。しかし、被告人の前科は、法律上刑の加重原由たる事実であって、判決主文の因に生ずる理由として判決において必ずこれを認定判示するを要するけれども、元來罪となるべき事実ではないから、必ずしも證據によりこれを認めた理由を示す必要はなく、また、證據によりこれを認めるにも被告人の供述によることなく一件記録中の適當な資料(本件においては被告人の原籍調書)により認定するを妨ぐるものではない。それ故、前科の刑の言渡又は確定の日時につき判示したところとこれを認めた證據との間に多少の差異があってもその證據によって前科としての要件を認めるに妨げなく、却って記録中の他の證據によりその日時を確実に肯認し得られるような場合には、その證據上の欠點は判決に影響を及ぼさないものと見るのが相當である。さて、原判決は、被告人の前科として同被告人は、昭和一四年三月七日和歌山地方裁判所において、放火未遂罪により懲役三年に處せられた旨認定したにかかわらず、その證據として擧示した被告人の供述は、同年二月末同裁判所において同罪により同刑に處せられたと述べたに過ぎないから、前科の日時において、その認定した前科とこれを認めた證據との間に差異があるといわねばならぬ。しかし、右被告人の供述は、その供述自體で明らかなように前科の大體の日を陳述したに過ぎないもので、恐らく言渡の日を供述したものと解せられるから、必ずしも判示に副わない供述とはいえない。しかのみならず、記録中に存する被告人の原籍調書によれば、判示前科の日を確実に肯定し得られるからこの點につき原判決には、前述の理由により判決を破毀するに足る欠点はない。そして被告人がその當時判示懲役刑の執行を終ったことは、原判決の明らかに認定判示したところで、その事実並びに本件犯罪が五年内に行われたことは、原判決擧示の被告人の供述に徴し算數上明白なところであるから原判決には、所論のように執行の終了を確定しない違法も存しない。論旨は、その理由がない。

同第四點について。

しかし、刑訴應急措置法第一二條第一項の規定は、被告人の請求があるときは、その所定の書類の供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えなければ、原則として、これを證據とすることができないとしたに止り、既にその機會を與えた場合において、その書類の證據能力又は價値を認めないとしたものではない。そして證據の取捨判斷は、裁判官が法令その他実驗則に反せざる限り、良心に從い諸般の事情に應じ獨立自由に決定すべきところであって、その取捨判斷の理由は、必要に應じ適宜これを示すことを妨ぐるものではないが常に必ずこれを示さなければならぬものではない。蓋し舊刑訴第三六〇條第一項は、有罪判決において罪となるべき事実を認めた證據上の理由を示すべきことを要求しているけれども、更らに證據の取捨判斷の理由をも示すべきことを命じてはいないからである。所論の刑訴應急措置法並びに新憲法の施行に伴いこれと異る解釋を採らねばならぬ理由は、毫もこれを見出すことはできない。それ故原判決が所論のように證人奥野福次郎の證言を排斥し同人に對する檢事の聽取書を罪證に供しながら、その證言排斥の理由を示さなかったからと言って所論の違法ありといえない。本論旨もその理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

被告人片山喜代八の辯護人三宅正太郎の上告趣意第一點についての裁判官齊藤悠輔の意見は次のとおりである。

所論は、先ず、その前提として、憲法第三八條第三項を以て「被告人の自白に基いて罪を斷じる場合には、その自白は他の證據によって確證されたものでなければならない。」ということと、すこしも差異はないとし。

(一)他の證據による確證は、自白中犯罪と重要な關係を持つ部分例えば殺人罪については被告人の自白中(イ)殺意(ロ)殺人の実行行為(ハ)致死の結果についてなされなければならないこと。

(二)確證すべき證據は、更らに他の證據による確證を必要としないものでなければならないこと。

(三)事実の認定は、他の證據によって確證された範圍でなければならないこと。

(四)確證すべき證據は、判決書中に被告人の自白と共に擧示されなければならないこと。

は、同條項の解釋上疑のないものとし、更らに同條項の類推解釋として、

(五)起訴されなかった共犯者の犯罪事実を認める供述が證明力を持つためには、すくなくとも、その重要な部分に付て、他の證據により確證されなければならない。

(六)共同被告人の自白も亦、共犯者の供述と同様に他の證據によって確證されない限り、他の共同被告人の自白を確證する効力を有しないものと解すべきである。としている。

されば、所論は、本件においてはすべていわゆる「自白」が存在するものと假定して立論するもので、自白そのものの本質及び本件においては、果たして自白が存するか否かについては、多く審究することなく、まして、被告人並びに共同被告人の自白に非らざる供述及び起訴されなかった共犯者の犯罪事実全部に亘らない個個の事実に關する供述、換言すれば、鑑定人を除く一般人的證據の證據能力又は證據價値については、全然何等の考慮をも拂っていないのである。

抑も舊刑訴第三三六條に「事実ノ認定ハ證據ニ依ル」とある「事実」は、一面において、実體法上の事実(例えば罪となるべき事実、刑の加重減輕に關する事実)のみを指すものではなく、廣く、訴訟法上の事実(例えば告訴の有無若しくは管轄の基礎たる犯罪地又は住居の存在)をも言うものと解すべきであると共に、他面、実體法上の事実と雖も一般公知の事実のごとき證明を要しない事実は、これに包含されないものと解しなければならぬ。また、その「證據」とあるは、物的證據のみを指すものではなく、廣く一切の人的證據をも包含し、いわゆる直接證據たると、間接證據たると、將又、全面的證據たると、一部的個々の證據たるとを問わないこと多言を要しない。そして舊刑訴第三六〇條第一項は、同第四九條第一項所定の裁判の理由を、有罪判決の理由において、具體的に示すべき要件を規定したもので、右刑訴第三三六條の「事実」中、実體法上の科刑權の存在に關する罪となるべき事実に限り、特にこれを認めた「證據」上の理由をも判決書において説明すべきことを要求したものである。されば罪となるべき事実と雖もその事実自體若しくはその事実中のある事実が一般公知の事実のような證明を要しないものであるときは、その公知事実たる旨説明又は指摘するを以て足りこれが證據を擧示するの要なきこと論を俟たないし、また、罪となるべき事実の證據には一切の人的、物的、直接、間接の證據を包含すると共に一個の證據を以て全面的にこれを認めると一部的個々の證據を綜合してこれを認めると、全面的證據と一部的證據と重複又は綜合してこれを認めるとを問わないこと勿論である。そして、所論憲法第三八條第三項は、單に「何人も、自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には、有罪とされ又は刑罰を科せられない。」と規定して右刑訴第三六〇條第一項所定の有罪の證據としては、消極的に、被告人の自白のみを唯一の證據と爲すことを禁止してその證據價値(證據力)を制限しているに過ぎない。その積極的に有罪の資料として被告人の自白が證據とならないこと(すなわち證據能力を有しないこと)若しくは所論のように被告人の自白を犯罪認定の證據とするには、その自白を更に他の證據によって確證すべき間接立證方法のみを執るべき要求はしていないのである。まして、同條項は、被告人の供述一般就中個々の事実に關する供述が證據たり得るや否や(すなわち證據能力を有するや否や)については、全然何等の標準も制限も與えてはいないのである。されば積極的に罪となるべき事実を認むるには、被告人の自白のみを唯一の證據とせざる限り一般の原則に從うを當然とするものといわねばならぬ。

元來鑑定人を除く人的證據すなわち人の供述が證據能力を有するには、その成立において真正であり且つその内容において自己の經驗事実(經驗事実に基く推測事実をも含む以下同じ)詳言すれば自己の過去における実際生活において特別の推理を用いず直覺的に感知した非代替的な判斷に關することを要するものである。それ故その供述内容にして經驗事実に基かない單なる意見又は想像に過ぎないものは、その成立において真正であっても證據能力を有しない。また人の供述は、その意識内に貯藏(記憶)された經驗事実を再現するものに外ならないから、經驗能力又は貯藏(記憶)能力を全然有しない者の供述又はかゝる能力を有する者が貯藏された經驗事実をそのまゝ再現しない供述は、成立上證據能力を有しないこと勿論である。それ故苟も事実上多少ともかゝる能力を有する者であるときは、その供述が成立上證據能力を有するや否やは專ら意識内に存する經驗事実をそのまゝ再現したものと認むべきか否かによるものといわねばならぬ。換言すれば供述者の自由意思に基かない不任意な供述又は供述者の故意に基く虚僞の供述は、成立上證據能力を有しない。そして憲法第三八條第一、二項は「何人も自己に不利益な供述を強要されない。強制拷問若しくは脅迫による自白又は不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを證據とすることができない。」と規定して供述の任意性を保障していると共に、法律は供述の真実性を確保するため特に第三者たる證人につき規定を設け、一定の年齢若しくは能力を有しない者又はある身分若しくは利害關係を有する者(舊刑訴第二〇一條参照)を除き、すべて證人は、宣誓を爲すべきものとし(同第一九六條)宣誓を爲すべき證人にしてこれを爲さずに證言した場合の供述は、その證據能力を否定しているのである。しかし、宣誓を爲さしめないで訊問すべき證人(前記舊刑訴第二〇一條参照)の供述若しくは被告人の供述については特にかかる真実性を確保すべき何等の規定なく、たゞ前述のごとく憲法第三八條第三項において被告人の自白につき證據價値を制限しているに過ぎないから、その任意性並びに真実性の判斷を慎重にすべきは格別その證據能力を否定すべき理由は毫も存しないものといわねばならぬ。そして共同被告人又は共犯者は、前者が自己も亦た被告人であるから、自己に對する關係においては、被告人本人であり、從ってその供述は、自己に對する關係においては、被告人本人と同一の價値制限に置かれるに止り、いずれも當該被告人以外の第三者である。それ故當該他の被告人に對する關係においては、共犯者のときは勿論(舊刑訴第二〇一條第一項第三號及び第五號第一八八條第二項参照)共同被告人であるときでも宣誓をしないで訊問される證人(舊刑訴第二〇一條第一八六條第一八八條参照)とその本質を異にするものではない。從って被告人若しくは共同被告人又は共犯者にして經驗能力及び記憶能力を有し、その供述にして任意誠実に爲されたものである以上その供述内容が經驗事実に基かない單なる意見若しくは想像のごときものでない限り、その供述の證據能力を否定すべき理由は毫も存しないものといわざるを得ない。そして、廣く、任意誠実になされた「被告人の自白」(舊刑訴第三四六條参照)とは、犯罪事実の全部について、自己の刑事責任を承認する意思表示をもいうものであるから、その意思表示の内容は、法律的責任の承認と事実的責任の承認とを包含し、事実的責任の承認には、更らに、自己の經驗した事実の告白(舊刑訴第四八六條第二號中「其ノ事実ヲ陳述シタルトキ」参照)と經驗しない事実(例えば被害者の氏名、傷害の部位、死亡の原因又は結果)の承認とを包含するものである。されば、被告人の意思表示たる供述にしてかかる法律的責任の承認若しくは自己の經驗しない事実の單なる承認に屬しない純然たる經驗事実の告白である以上その證據能力を否定する理由は、毫も存しないものといわねばならぬ。また、それと同時に、被告人のいわゆる自白すなわち犯罪事実全部についての刑事責任の承認は、證據として本質上必ずしも常に犯罪事実全部を立證するに足る能力を有しないものというべく、從ってその犯罪事実全部を認めるには、その犯罪事実が純然たる被告人の行動(經驗)のみにより構成せられざる限り、被告人の經驗事実の外公知事実あるときはこれを指摘し且つ被告人の經驗しない事実の立證を要するものといわざるを得ない。果たして然らば憲法第三八條第三項は、證據法上當然の事理を表明したものとも解し得べく、漫然自白を全部的證據能力あるものと輕信すべからざると共に、みだりに被告人の經驗事実の告白を輕視することも許すべきではない。

飜って同條項が、被告人の證據能力ある自白の證據力(證據價値)を制限した趣旨を考えると、その趣旨とするところは、要するに、実體的真実でない架空な犯罪事実が時として被告人の自白のみによって認定される危險と弊害を防止するにあるものと解するを相當とする。それ故證據能力ある被告人の自白以外に必要とせられる證據の種類は、その自白の證據能力を補強すべき證據ではなく、その證明力(證據價値)を補充強化すべき種類の證據すなわち被告人の證據能力を有する自白と重複又は綜合して犯罪事実そのものを認定するに足る證據力(證據價値)ある證據であって、主として犯罪事実が客観的に存在することを證明するに適する種類のものを指すものといわねばならぬ。換言すれば、犯罪事実にして架空でない実體的真実のものであることが被告人本人の自白以外の證據のみによって認められる場合は勿論被告人の前示のごとき證據能力を有する個々の事実に關する供述とそれ以外の一切の人的、物的證據とを綜合し、又は、被告人の任意誠実になした經驗事実の告白たる自白と經驗せざる事実の直接若しくは間接の證據と重複又は綜合して確実にこれを肯認せられる限り、同條項にいわゆる「自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合」に當らないと解するを相當とする。そして、犯罪事実就中その客観的存在を證明すべき本人の自白以外の證據の種類及びその證明力(證據價値)の範圍は、所論(一)乃至(三)のごとく狹く制限的に解すべき理由はなく、すべて、裁判官が前示の趣旨に從い、実驗則に反せざる限り、諸般の事情に應じ、獨立自由に取捨判斷するところに一任さるべきである。

そして前述のごとく、共犯者は、純然たる證人であるから、被告人の自白の證據力を補強すべき證據の種類及びその證明力の範圍の問題としてはその供述に対して所論(五)のような狹い類推解釋をとる餘地は存しない。また、共同被告人は、被告人に對する關係においては第三者であるから、共同被告人の任意誠実に爲した經驗事実の告白たる自白は、共犯者の證據能力を有する供述とその性質を異にする理由はなく、しかも各人の經驗事実は、各人毎に同一であり得ないから、それ自體獨立性と非代替性とを有するものと言うべく、從って、その自白は被告人の任意誠実に爲した經驗事実の告白たる自白と重複又は綜合して犯罪事実そのものを認定するに適する資料たり得るものといわねばならぬ。すなわち犯罪事実(犯罪事実であって自白ではない)に對し相互に各自の證明力を補充強化する補強證據たり得るものと言うことができる。それ故所論(六)の解釋も當らない。しかし、共同被告人は、自己も亦た被告人であるから自己に對する關係においては、その自白は被告人本人の自白と同一の價値制限を受けるから自己の經驗事実の告白たる自白と被告人本人の經驗事実の告白たる自白とを重複又は綜合しても犯罪事実が架空でない実體的真実のものであることを肯認するに足りないときは、もとより犯罪事実を認定するを得ないのは勿論であるが、犯罪事実の客觀的存在にして肯認し得る限り(例えば物價統制令の契約賄賂の約束)、被告人並びに共同被告人の自白のみによりて認定することも妨ぐるものではないといわねばならぬ。

今、これを本件殺人並びに殺人未遂事件に見るに、原判決は、本件の客觀的存在に關する被害者亡林秀治の創傷並びに死因の點は、鑑定人岡野錦弥作成の鑑定書中の記載により、被害者亡山本豊安の創傷並びに死因の點は、鑑定人花岡堅吉作成の鑑定書中の記載により、また、被害者西本儀八郎の創傷の部位並びに程度は、醫師荒瀬進作成の檢案書中の記載及び同被害者に對する豫審訊問調書中の供述記載に依りそれぞれ認定したものであって、もとより所論被告人本人並びに共犯者若しくは共同被告人の各供述によったものではない。そして原判決は、右被害者等の創傷の部位若しくは程度並びに死因を除いた爾餘の事実をば、被告人片山喜代八に對する豫審訊問調書中の供述記載、原審共同被告人中筋三幸、同笠松栄一、同野口繁に對する各豫審訊問調書中の供述記載、第一審共同被告人伊藤正に對する豫審訊問調書中の供述記載、相被告人吉廣數政に對する同調書中の供述記載の外關係人奥野福次郎に對する檢事の聽取書中の供述記載等を綜合して、これを認定したものである。しかし、その各供述記載は、いずれも判示犯罪事実全部を自白したものではなく、その事実中の殺意若しくは共謀の事実を推斷し得べき事実の一部又は実行行爲若しくは死亡の結果の一部を認めうべき經驗事実若しくはこれに基く推測事実の供述である。そして、その擧示した個々の供述記載を綜合すれば右判示事実を肯認するに足るから、原判決には所論のように憲法第三八條第三項の解釋を誤まり斷罪した違法は認められない。論旨は、その理由がない。

よって舊刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は、前示裁判官齋藤悠輔の補足意見を除くの外裁判官全員の一致した意見によるものである。

裁判官庄野理一は退官につき合議に關與しない。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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